栄養素の説明 - タンパク質

アミノ酸

人をつくるアミノ酸

人間の身体は頭の先からつま先まで、全てタンパク質でできています。髪の毛も爪も筋肉もタンパク質です。

生命をつくる最も大切な栄養素、それがタンパク質です。

そしてタンパク質はアミノ酸によってつくられています。アミノ酸のおかげで私たちは成り立っているのです。

アミノ酸の消化・吸収

食べたタンパク質は、まず歯で噛み砕かれ、胃酸で消化されやすく加工されます。その後、胃や十二指腸で分解されて、小腸で小さなペプチドやアミノ酸のかたちになって吸収されます。

吸収されたアミノ酸は、いったん肝臓に集められ、そこから全身に運ばれます。そして遺伝子の情報に基づいて筋肉や心の素(神経伝達物質)、ホルモンなどにつくり変えられ、私たちの生活を支えてくれています。

必須アミノ酸

私たちのからだは何種類のアミノ酸でできているでしょう?
驚いたことに、私たちのからだは主にたった20種類のアミノ酸からできています。

この20種類のアミノ酸は、からだの中でつくることのできない必須アミノ酸と、からだの中でつくられる非必須アミノ酸とに大きく分けることができます。必須アミノ酸は、毎日の食事から必ず摂ることが必要とされるアミノ酸です。

必須アミノ酸

体内では合成されず、必ず食物から補給しなければならない

  • バリン
  • イソロイシン
  • ロイシン
  • メチオニン
  • リジン(リシン)
  • フェニルアラニン
  • トリプトファン
  • スレオニン(トレオニン)
  • ヒスチジン

非必須アミノ酸

体内で合成できるが、様々な働きがあるため、摂取したいアミノ酸

  • アルギニン
  • グリシン
  • アラニン
  • セリン
  • チロシン
  • システイン
  • アスパラギン
  • グルタミン
  • プロリン
  • アスパラギン酸
  • グルタミン酸

※アルギニンは小児では必須アミノ酸に含まれる

毎日入れ替わるアミノ酸

私たちのからだは脂肪は貯えることができますが、アミノ酸は貯金することができません。

アミノ酸がつながってできるタンパク質は新しいアミノ酸と毎日毎日入れ替わってからだを維持しています。したがって、毎日質のいいアミノ酸(タンパク質)を摂ることが毎日の健康の秘訣になってきます。

タンパク質の「質」を決定するアミノ酸の桶

9種類の必須アミノ酸のバランスのことをアミノ酸スコアといいます。それぞれのアミノ酸が全て必要量を満たしていれば、アミノ酸スコア100となります。
しかし、一つでも必要量を満たしていなければアミノ酸スコアも減少します。

例)必須アミノ酸の1種類だけが必要量の60%しか満たしていない場合、アミノ酸スコアは60となります。

アミノ酸スコアとプロテインスコア 〜タンパク質の評価方法〜

食品 アミノ酸
スコア
プロテイン
スコア
鶏卵 100 100
牛肉 100 80
大豆 100 56
牛乳 100 74
アジ 100 89

アミノ酸スコアの方が新しい指標ですが、それよりも前に出たプロテインスコアの方が評価が厳しく実用的という意見もあります。数字が高いほうがタンパク質として質がいい印です。

からだが喜ぶアミノ酸の食べ方

アミノ酸を摂るときに、からだが喜んでくれるように効率よく食べる方法があります。それは、先ほど「アミノ酸の桶」で見た、欠けているアミノ酸を多く持っているほかの食べ物を一緒に食べるということです。

例えば、納豆を食べるときは、ツナやかつお節をまぜて一緒に食べる。玄米ごはんを食べるときは納豆やアジを一緒に食べるとよいでしょう。

アミノ酸の必要量

私たちは、どのくらいのタンパク質やアミノ酸が必要なのでしょうか?

驚いたことに、こんなに大切なタンパク質やその構成成分であるアミノ酸ですが、人のからだにとってどのくらい必要なのかは、未だ明らかになっていないのが現状です。

アミノ酸の必要量

からだが要求するアミノ酸の必要量とそのアミノ酸パターンは、一人ひとりの代謝能力、年齢、性別、食事、ストレス、ライフスイタイル、身体活動などによって変わります。同一人物でも1日の時間帯や人生の段階によって変わってしまい、本当にからだが必要とする量を確実に計算することはできないようです。

しかし、ストレス時、スポーツ選手、妊婦さん、成長期の子ども、病気からの回復時、飲酒・喫煙時などは普段の状態よりも必要量が増えることがわかっています。

大人の必須アミノ酸必要量

2007年に、WHO/FAO/UNUより22年ぶりにタンパク質・アミノ酸についての報告が改定されています。主な改善点としては、成人の必須アミノ酸必要量の数値が1985年の2~3倍となったことが挙げられます。

成人の必須アミノ酸必要量(単位:mg/kg/日)1)
  1985年
FAO/WHO/UNU
2007年
FAO/WHO/UNU
ヒスチジン 8-12 10
イソロイシン 10 20
ロイシン 14 39
リジン 12 30
メチオニン + システイン 13 15
フェニルアラニン + チロシン 14 25
スレオニン 7 15
トリプトファン 3.5 4
バリン 10 26

アミノ酸の生理作用

アミノ酸の生理作用を機能別にまとめると以下のようになります。

機能 関係するアミノ酸
材料、調節 タンパク質合成 ロイシン(すべてのアミノ酸)
エネルギー源 クレアチン合成、ATP産生 グリシン、アルギニン、メチオニン
細胞増殖 プリン、ピリミジン合成 グルタミン、グリシン、アスパラギン酸
神経伝達 セロトニン、カテコールアミン トリプトファン、チロシン、グルタミン酸
循環の調節 一酸化窒素 アルギニン
免疫能増強 リンパ球増殖 グルタミン、アルギニン
抗酸化作用 グルタチオン、タウリン システイン、グルタミン酸、グリシン
転写調節 RNA生合成 ロイシン
窒素輸送 アンモニア輸送 グルタミン、アラニン
ホルモン分泌 成長ホルモン、インスリン アルギニン、ロイシン
生理活性物質 ヒスタミン、カルニチン ヒスチジン、リジン

必須アミノ酸の覚え方

必須アミノ酸を覚えるのは大変ですね。でもいろんな語呂で合わせると必須アミノ酸も覚えやすくなります。ご自分でいろんな言葉で作ってみると面白いかもしれません。

雨拾い振り飛ばす あ!太り目広いバス

:アルギニン
:メチオニン
:ヒスチジン
:ロイシン
:イソロイシン
:フェニルアラニン
:リシン(リジン)
:トリプトファン
:バリン
:スレオニン

:アルギニン
:フェニルアラニン
:トリプトファン
:リシン(リジン)
:メチオニン
:ヒスチジン
:ロイシン
:イソロイシン
:バリン
:スレオニン

鎌状赤血球 1つアミノ酸が変わるだけでこんな病気になってしまう

タンパク質のかたちや働きはアミノ酸の並び方で決まります。アミノ酸の並び方がタンパク質の性質を決めるのです。

遺伝子(DNA)の突然変異によって、グルタミン酸がバリンに変わってしまうだけで、円盤のかたちをした赤血球が鎌型になってしまう病気があります。「鎌状赤血球貧血症」という病気です。

鎌状赤血球貧血症は、酸素が少なくなると、赤血球の形が鎌状になり、血流が悪くなってしまいます。両親がこの病気の場合、子供は生まれる前に死亡してしまうそうです。

さまざまなアミノ酸の効果

生活習慣病とアミノ酸

人類はもともと肉食動物に位置付けられています。

1万年前に農耕が始まる前の食事は、必須アミノ酸を摂りやすい動物の肉や木の実、魚や貝類でした。

しかし現代はどうでしょう。必須アミノ酸・リジンやメチオニンが少ない穀類を主食とする生活に変わってきています。

穀類の足りないアミノ酸を補うことのできる卵や肉が高価だった時代は、それを大量の穀類で補う必要がありました。しかしそれではエネルギーが多くなりすぎるという問題点がありましたが、機械のなかった100年前までは労働がハードでしたので、その分を労働で使い切ることができていました。

機械化の進んだ現代はその余剰分を使い切ることができず、そのバランスの乱れが生活習慣病に大きく関係しているといわれています。

持久力アップとアミノ酸 ~BCAA(バリン、イソロイシン、ロイシン)~

アミノ酸BCAAが持久力アップの方法につながるといわれています。

筋肉の主成分はBCAAです。筋肉の40%をBCAAが占めています。BCAAは筋肉の材料でもありますが、筋肉のエネルギー源ともなります。

運動前にBCAAを摂っておくことは長時間運動の持久率アップにつながるといわれています。

筋肉痛解消とアミノ酸 ~BCAAとアルギニン~

筋肉痛解消にアミノ酸。

運動の20~30分前にBCAAを摂っておくと、筋肉痛が軽く済むことが期待されています。

またこのとき、アルギニンも一緒に摂るとよいでしょう。アルギニンは筋肉の修復をしてくれる成長ホルモンの分泌を促してくれます。

脳の感じる疲労とBCAA

運動中、私たちの「脳」が「疲れた」と感じるのを予防するのに、BCAAが役立つと考えられています。

人は激しい運動をしたときなど、ときによって脳が「疲れ」を感じます。そのメカニズムとして、脳内でのセロトニン合成が進んでいることが考えられています。

セロトニンの材料はトリプトファンですが、このトリプトファンとBCAAの脳への入り口が同じです。そして脳に入っていく量は血中にあるそれぞれの量に比例します。

ですので、運動するときにBCAAを摂っておくと、量の多いBCAAの方が優先的に脳の中に入っていって、トリプトファンが脳の中に入れません。その結果、セロトニンの合成が阻害されて、この「脳の感じる疲労(中枢性疲労)」を軽くしてくれるかもしれないのです。

ストレス対策栄養素 ~グルタミン~

ストレスの多い現代社会。ストレス対策に関係する栄養素としてグルタミンがあります。

グルタミンは、筋肉に貯金されているアミノ酸の40%を占めています。そして精神的あるいは運動等によるストレスによって筋肉から取り出され、使われます。グルタミンは体内でつくられますが、ストレス時は体内での生合成だけでは足りなくなるおそれが出ます。

傷が治るのを早めたり、小腸や免疫細胞のエネルギーになるグルタミン。ストレス時にはグルタミンをしっかり摂りましょう。

アスリートとグルタミン

グルタミンは免疫細胞の活性化に深く関与しています。

アスリートが行うような過剰な運動(ストレス負荷)時には筋肉は充分なグルタミン供給ができずに血中のグルタミンが少なくなり、それが免疫の低下につながるおそれが出ます。

その結果、上気道炎、損傷治癒遅延、疲労感、怪我による感染症などへのリスクが高まるおそれが出てしまいます。

運動後のグルタミン摂取は、グリコーゲン回復を早め、スタミナ回復に有益です。

ダイエット効果 ~脂肪を燃やすカルニチン~

カルニチンは脂肪を燃やすときに必須のアミノ酸の仲間です。

カルニチンは脂肪酸をエネルギー工場(ミトコンドリア)に運び入れてくれています。正しいダイエットでは、筋肉量を保ちながら余分な体脂肪を燃やすことが優先されます。そのとき、カルニチンが活躍してくれます。カルニチンがないと運動をどんなにがんばってしても脂肪が落ちにくくなってしまいます。

体脂肪を燃やすことで有名なカルニチンですが、現在、さまざまな研究によって疲労回復や運動分野における効果なども期待されているところです。

カルニチンの材料は?

カルニチンをつくるには、アミノ酸(リジンとメチオニン)、ビタミンC、鉄、ビタミンB6、ナイアシンが必要です。カルニチンは体内でつくられますが、加齢によりその合成量が少なくなります。

脂肪肝とアミノ酸 ~アミノ酸の仲間・ベタイン~

ベタインは、ビート(砂糖大根)から分離されるアミノ酸の仲間(誘導体)で、グリシンと似た構造を持ちます。

ベタインを口から摂ることで、動脈硬化の原因といわれている「ホモシステイン」の濃度を下げることがいわれています。また、ベタインを摂ることによって、お酒の飲みすぎでなってしまった脂肪肝の改善や、循環器・認知障害が改善されたという報告もあります。

ダイエットとアミノ酸 ~分子栄養学的アプローチ~

正しいダイエットでは、筋肉量を保ち、余分な体脂肪を減らすことが有効です。そのためには、適度な運動や生活習慣をまずなおして、タンパク質や微量栄養素をしっかり摂ることが挙げられますが、減量を補助する栄養素としては以下のようなものが考えられます。

イノシトール(VB群)
ベタイン(アミノ酸)
グリシン(アミノ酸)
  • 抗脂肪肝因子
  • 肝臓へ蓄積する脂肪を効率的にリン脂質へ代謝する
  • グリシンは抑制系の神経伝達物質(睡眠の質の改善・疲労回復作用)
カルニチン(アミノ酸)
  • 脂肪酸がミトコンドリア内膜を通過する際に必要なアミノ酸
  • 脂肪酸代謝を効率化する
アルギニン(アミノ酸)
オルニチン(アミノ酸)
リジン(アミノ酸)
  • 成長ホルモンの分泌を促す
  • 基礎代謝の向上に関与する

アンチエイジング ~成長ホルモンとアミノ酸~

アンチエイジングが注目されています。内側から若返るために、若返りのもと「成長ホルモン」を確保するには何が要るでしょう?

このとき活躍するのがアルギニン、オルニチン、リジンです。これらのアミノ酸は筋肉組織をつくったり、成長ホルモンの合成や分泌を促す働きがあります。

若々しさを保つために、しっかり夜間に睡眠をとり、アミノ酸も補給して成長ホルモンを確保しましょう。

成長ホルモン

子どもの成長にかかわったり、私たちが寝ている間に疲れたからだを元に戻してくれる成長ホルモン。しかし、成長ホルモンは20代を境に急激に体内合成が低下します。

成長ホルモンの働き
  • 筋肉量の増加
  • 体脂肪の減少
  • 骨を丈夫にする
  • 血圧、コレステロール値の改善
  • 皮ふのハリ、弾力性の改善
  • 心機能の改善 免疫機能の改善
  • 傷の治りを早める

質のいい睡眠とアミノ酸 ~トリプトファン・グリシン・グルタミン~

毎日を快適に過ごす秘訣、よい睡眠。質のいい睡眠にもアミノ酸が活躍しています。

睡眠のリズムをつくっているのはメラトニンです。メラトニンはトリプトファンを原料として脳の中でつくられます。そして睡眠のリズムにはメラトニンのほかにGABAやグリシンもかかわっており、GABAは脳内でグルタミンからつくられます。また、グリシンは神経伝達物質としての働きがあり、「睡眠の質」を向上するアミノ酸として注目されています。

アミノ酸をしっかり補給し、質のいい睡眠をとりましょう。

このような症状で悩んでいたら…

  • 目覚めが悪い
  • 日中眠くなる
  • 寝ても疲れが取れない
  • 日中の作業がはかどらない
  • なんとなく気分が優れない

・グリシン摂取による効果

  • 睡眠の質の改善
  • 日中の作業効率の改善
  • 夜間頻尿の改善
  • 気分がすっきりする

皮ふとアミノ酸

人のからだは大部分が水でできています。その水の蒸発を防いでくれているのが皮ふです。そして細菌やウイルス、汚れからからだを守ってくれているバリアが皮ふのいちばん外側、角質層といいます。

みずみずしい肌は憧れですが、その皮ふの潤いをつくりだしてくれているのが角質層の細胞に含まれる天然保湿成分(NMF)です。このNMFの約半分がアミノ酸でできています。

いいアミノ酸を十分補うこと。これが潤いのあるきれいな肌を保つ第一歩につながります。

旨味とアミノ酸 ~日本人が発見!グルタミン酸~

アミノ酸は「おいしい!」と感じるもとにもなります。

グルタミン酸は、明治41年(1908)池田さんという人が、昆布の出汁から抽出、「うまみ」と名付けました。そして今では世界中で甘味、酸味、塩味、苦味と並ぶ5つ目の味覚とされるようになりました。

「おいしさ」とアミノ酸

グルタミン酸のほかにも、いろんなアミノ酸が「おいしさ」に関係しています。

  • テアニン:玉露の旨味
  • グリシン:甘味や総合的なおいしさに関係
  • アルギニン:味の持続性、複雑さ、コク、風味に貢献

アミノ酸チェック

ご自身のアミノ酸摂取量は足りているでしょうか?
該当する項目が多い方は、カルニチン、アルギニン、オルニチン、リジン等を摂ることによって、症状の改善や目標の達成に役立てることが期待できます。

若い頃気にならなかったところに
脂肪がつくようになった
運動後の筋肉痛や疲労の回復が
遅い気がする
  検診で「肥満」といわれた   減量しても体重が元に戻りやすい
  筋肉が落ちた気がする   生活習慣病が気になる
  ダイエット中である   疲れがなかなかとれない
  運動のパフォーマンスを上げたい   何となく老けた気がする
  運動中のスタミナが続かない   肌のハリがなくなった気がする

【参考・引用文献】
1)タンパク質・アミノ酸の必要量~WHO/FAO/UNU合同専門協議会報告(医歯薬出版株式会社)

栄養素の説明

治療の実際と改善例