栄養素の説明 - ミネラル

鉄は、肉や魚・野菜などに含まれる栄養素です。
鉄は、細菌や植物、動物などあらゆる生き物(乳酸菌以外)に必要であると考えられています。

鉄欠乏症は世界的にもっともよく見られる栄養問題のひとつです。現在、もっとも軽い潜在性鉄欠乏症とよばれる状態でも、実はうつ病などと関わる重要な状態であることが知られるようになってきました。

鉄の吸収 ~ヘム鉄と非ヘム鉄~

栄養素の鉄には2種類あります。ヘム鉄と非ヘム鉄と呼ばれるものです。

肉や魚に含まれるものを「ヘム鉄」、ひじきやほうれん草、プルーンなどに含まれるものを「非ヘム鉄」といいます。ヘム鉄の方が圧倒的に吸収率がよくなっています。

ヘム鉄

  • 肉や魚に含まれる
  • 吸収率が高い(10~20%)

非ヘム鉄

  • 野菜や穀類に含まれる
  • 吸収率が低い(2~5%)

ヘム鉄と非ヘム鉄の吸収

鉄は小腸で吸収されます。

ヘム鉄はもともとタンパク質にくるまれて吸収されやすい形になっているので、比較的すんなりと吸収されます。一方、非ヘム鉄の吸収率は非常に低く、吸収されるときに活性酸素を出して粘膜を攻撃してしまいます。また、一緒に食べたものに簡単に影響されてしまいます。

貧血対策にはヘム鉄を含む食品を食べましょう。

ヘム鉄と非ヘム鉄の吸収(図)

鉄の吸収を促進・阻害する因子

鉄を摂るとき、CPP(カゼインホスホペプタイド)を一緒に摂ると、小腸の下の方でもう一度汲み上げてくれるので、吸収率が上がります。

酸っぱいものや辛いものを食べて胃を刺激するのも効果的です。

一方、紅茶、コーヒー、緑茶に含まれるタンニンは、非ヘム鉄の吸収を妨げるといわれています。しかし、ヘム鉄の場合は気にしなくてよいという意見もあります。

促進因子
(鉄の吸収を助ける)
阻害因子
(鉄の吸収を妨げる)
  • CPP
  • ビタミンC
  • タンパク質
  • タンニン(コーヒー、紅茶、緑茶等)
  • フィチン酸(穀物の外皮、玄米等)
  • 食物繊維(おから、大豆、穀物の外皮、海藻類)

各食品中の鉄吸収率

同じ量の鉄でも、ヘム鉄と非ヘム鉄で吸収が6倍近い差があります。
各食品中の鉄吸収率(図)

(J.D.Cook et al., "Iron Metabolism in Man", Blackwell Scientific Publication, London (1979))

体内のミネラルバランス ~鉄、亜鉛、銅~

人のからだは、微妙な割合でミネラルバランスが保たれています。このミネラルのバランスがとれてこそ人は健康でいられます。

例えば、鉄だけを大量に摂取すると、亜鉛や銅の吸収が妨げられてしまいます。すると他のミネラルが減る分、利用できる鉄の量が多くなりそうですが、実は逆にその利用が阻害されてしまいます。

また、鉄を運んでくれるタンパク質(トランスフェリン)に鉄が乗るときには銅が必要(セルロプラスミン)ですし、亜鉛はヘモグロビンの合成にも関係していますので、これらのミネラルは一緒に摂るのが理想です。

鉄の分布

人は体重60kgの男性で約3g、体重50kgの女性で約2.5gの鉄をからだの中に持っています。そのうち2/3は酸素を運ぶトラック(ヘモグロビン)に、10%は筋肉(ミオグロビン)に、残りは肝臓、脾臓、骨髄、腸に貯蔵されています。
鉄は人の体にとってとても大切ですので、すぐに取り出せるように貯蔵されていたり、再利用されるシステムになっています。

鉄の出入りはとても閉鎖的で、摂った食べ物のうち約1mgが吸収されると同時に、尿や便から約1mgの鉄が排泄されるという動きになっています。

体内の鉄の分布

鉄の働き

ヘモグロビン(簡略図)私たちは呼吸して吸った酸素でエネルギーをたくさん作り出し、毎日生活しています。

鉄は、その酸素を運ぶトラック(ヘモグロビン)の一部となって酸素を全身に運んでいます。また、筋肉の中にいて(ミオグロビン)血液からの酸素を受け取ったりもしています。

ほかにも、鉄は酵素の一部(チトクローム)としてエネルギー作りに関係したり、薬の代謝に関係したりしています。

血液はなぜ赤い?

ヘモグロビンが酸素を全身に運ぶタンパク質とくっついた鉄(ヘモグロビン)が酸素を全身に運んでくれています。血液の色が赤いのは、このヘモグロビンの鉄が酸素と結合したことによって生じる鉄サビの色なのです。

鉄不足の症状

鉄不足鉄不足は特異的な症状は乏しいですが、様々な不定愁訴と深く関係しています。

鉄が不足すると以下のような症状が出ます。

  • 動悸、めまい、肩こり、頭痛
  • 皮膚、爪、髪の毛、粘膜のトラブル
  • あざ、歯茎の出血、抜け毛など
  • 氷を好んで食べる

また、精神発達にとっても重要な栄養素なので以下のような症状も出ます。

  • 注意力の低下、イライラ感
  • 食欲不振
  • 抑うつ感

赤ちゃんとヘム鉄

赤ちゃん生まれたばかりの赤ちゃんは、お母さんから十分な量の鉄をもらって生まれてきます。しかし、その後の急速な成長に伴って出生6ヶ月から24ヶ月の間にお母さんからもらった鉄は尽きてしまいます。赤ちゃんはどんどん大きくなり続けます。しっかりヘム鉄を補充しましょう。

未熟な状態で早く生まれてきてしまった赤ちゃんにはまだ体内に十分な鉄がないため、未熟児用のミルクには鉄が加えられています。

女性と鉄不足

初潮を迎えた女性は、尿や汗、便から出てしまう鉄に加え、月経によりさらに多くの鉄が失われることになります。女性が初潮を迎えるころはまだまだ心身ともに成長期ですので、体重1kgの増加につき30mg / 月の鉄が必要です。

無理なダイエットをしたりスポーツなどでたくさんの汗をかいたりすると、鉄の供給が間に合わなくなり、貧血になるおそれが高まってしまいます。女性は積極的にヘム鉄を摂りましょう。

女性のライフステージと鉄

鉄欠乏性貧血

初潮
月経血からの鉄喪失
月経により30mg/月の鉄が失われる
急激な発育・体重増加による鉄需要の増加
体重1kg当たり30mg/月の鉄が必要
思春期
過度な運動
汗1リットルにつき、0.5mgの鉄が失われる
無理なダイエット
バランスのよい食事をしていても約10mg(吸収量は約1mg)の鉄しか摂取できない。ダイエットをしている人はさらに摂取量が少なくなる。
成人期
妊娠・出産
胎児の成長や出産時の母体の回復、母乳栄養を考えると、最低4mgの鉄が必要。
育児期
子宮筋腫・悪性腫瘍
疾患により鉄が失われる
更年期

コラーゲンと美肌ミネラル・鉄

皮膚の本体は90%がコラーゲンです。コラーゲンをつくり出すのにタンパク質とビタミンC、そして鉄が必要です。

日々ますます輝いた皮膚をつくるために、十分な鉄とタンパク質、ビタミンCの摂取をおすすめします。

うつ ~心の不調と鉄~

プチうつなど心の不調を訴える方々が増えています。うつは鉄不足でも起こります。

以下の図は、人の心をつくる脳の神経伝達物質の流れです。例えばいちばん右のセロトニンの列について見てみます。鉄はトリプトファンが5-HTPになるときに必要です。ゆえに鉄が不足するとトリプトファンが5-HTPになれないおそれが出ます。そしてセロトニンまでいかない可能性が出てしまうのです。

心の不調を訴える方の中には、もしかしたら鉄が足りない方もいるかもしれません。

神経伝達物質の生成と鉄の関与

ヘム鉄を多く含む食品(1食当たり使用量と含有量)

ヘム鉄は動物性タンパク質に多く含まれています。レバー、赤身の豚肉・牛肉、あさりなどです。赤身の魚にも多く含まれます。

食品 豚レバー あさり水煮缶 カツオ刺身
1食当たり
使用量
100g 40g 100g
(7切れ)
含有量 13mg 15.1mg 1.9mg

もしかして鉄不足?

あなたの鉄の状態は大丈夫でしょうか?
以下の項目をぜひチェックしてみてください。

立ちくらみ、めまい、耳鳴りがする むくみがある
  疲れやすい   しっしんができやすい
  顔色が悪い   肩こり、腰痛、背部痛
  風邪にかかりやすい   便秘や下痢をしやすい
  歯茎の出血、体にアザがよくできる   吐き気がする
  頭痛、頭重になりやすい   胸が痛む
  注意力の低下、イライラしやすい   体を動かすと動悸や息切れがする
  のどの不快感   まぶたのうらが白い
  洗髪時、髪の毛が抜けやすい   皮膚が青白く、または黄色っぽくなる
  寝起きが悪い   くしゃみ、鼻水、鼻づまり
  食欲不振   口角、口唇炎、舌のしびれと赤み
  神経過敏    

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治療の実際と改善例